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谷本誠一・保護者へのアドバイス 8

将棋の指導理念

平成16年12月28日

 私においては、確乎たる将棋の指導理念というものがありまして、これは教育全般に共通して言えることだと思います。
 要点として先ず第一に、「常に子どもの立場に下りて行く」ということです。大人は定跡や手筋とか、先入観を持っていて、考え方が固定しています。それに対し子どもは、可能性を無限に秘めています。従って子どもなりの考えで指した手を、大人の考えで即否定されると、面白くないのも当然です。将棋は無限の可能性を秘めていますから、大人の気付かない重要なヒントを子どもの指し手から、逆に学ぶという姿勢が指導者には必要です。障害児教育を担当している教育者が言っています。「障害児の純粋な心に、私達大人や教育者は学んで行かないといけない」と。それが教育の根本姿勢なのです。それは障害児教育に限らず、教育、人生全てに共通します。教育者や指導者、人生の先輩も全て、対象者を通じて学んでいく謙虚な姿勢が問われています。人生において、出会う全ての人や事象が先生となるのです。
 第二に、「子どもを否定することなく、褒めることに徹する」ことです。人間誰しも、否定されることほど気に障ることはありません。逆に褒められると、嬉しくもなり、もっと先生に応えていきたいと思うようになるでしょう。教育は「褒めることと見つけたり」と言っても過言ではありません。褒めることとは、子どもの長所を見い出すことであり、指導者がその長所を伸ばしてあげることが肝要な心得です。
 第三は、「勝つ喜びを体感させる」ことです。将棋の最終目的は、敵王将を詰まして勝つことにあることは言うまでもありません。にもかかわらず、たとえ指導将棋であったとしても、負けてばかりではさすがに嫌になってしまいます。それを踏まえ、私が主宰する学生会では、棋力に差があればそれに応じてハンディをつけるのです。それが上手が裸玉であったりしても、それで勝つことができれば、得るものは非常に大きいものがあります。将棋は孤独なゲームですから、負けたら自己否定、ひいては人格を否定されることに繋がります。従って勝つことは、自己の責任において道を開拓して行った結果であり、それだけ喜びが大きいのです。
 第四として、勝つ技術を会得するもっとも適切なことは、「詰将棋を解かせ、自信をつけさせること」です。それも難しい問題では逆に嫌になってしまいます。あくまでも子どもの立場に立脚し、その棋力に応じた解けそうな問題を出題することがポイントです。それを解く、即ち詰ますことにより、勝つことの疑似体験をしていることに他なりません。そうすれば知らず知らずの内に自信がつき、駒の活用法や手の組み合わせ、つまり手筋などが自然に身につく仕組みなのです。これは理屈ではなく、感性を磨くことであり、右脳を啓発するということなのです。
 そういう意味から第五として、「焦って定跡を教えてはならない」ということです。定跡を教えると、子どもの思考方法に制約がかかり、伸びる棋力も伸びなくなります。「定跡を勉強したら弱くなった」と大人の嘆きをよく聞きますが、これは本当です。定跡は先人が開発した理屈であり、そればかりが先行すると、頭でっかちになり、左脳人間になってしまいます。これでは右脳啓発に遅れをきたし、ペーパードライバーの如く実地で役に立たなくなるでしょう。子どもは大人と違って幼少なほど、右脳が啓発されますから、その内にできるだけ感性を磨く方がよいのです。定跡は後から自然に身について行くものなのです。これは学校教育において、文法を先行するするため、英会話実践において役に立たなかったり、音楽理論ばかり先立つと、楽器を弾けないとか、楽譜が読めないということとよく似ています。
 以上のことを踏まえ、これらの指導理念を素人の方に求めても無理と言うものです。では将棋が強ければ、正しい指導が可能かというと、これは別問題です。あくまでも相手の立場に立脚できるか否か、子どもが何を考えているのかを読みとることができるか否かが、指導者の資質として問われることになるでしょう。